08.06.30
誰でもひとつは、怖いもの、苦手なものがあるはず。 今回は、そんな苦手なものを抱えて悩む、皐月くんのお話です・・・・・・ 【空色ピアノ番外編 雷とともに去りぬ】 人が想像できることは実現できる。 誰だったか、そんなことを言い残した人がいる。 だけど、僕にはそんなの無理だろうって思えてしまう。 だって、それが本当なら僕はとっくに雷を克服しているからだ。 「ぎゃああぁぁぁ!!!」 「・・・うるさいんすけど、愛丘先輩」 「だだ、だって!!雷がゴロって!!ぴかって!!!」 「・・・」 本を読んでいた爽太は、深いため息をつきながらそれを閉じた。 全く集中できない。 まったく・・・ 「雷の音がダメなんすか?」 「全部」 「そんな子供みたいなこと・・・特にだめなのは?って聞いてるんすよ」 「え、っと・・・っ!!ぎゃあ!今!今光ったよ!?」 「・・・」 「あぁぁぁ!!!鳴ったぁ!そーたくん!!」 「・・・すみません、聞いたおれがバカでした」 爽太はため息をつきながら立ち上がり、部室から出て行こうとする。 それを、必死に皐月が阻止した。 「どっ、どど、どこにいくの!?」 「どこって、トイレっすけど」 「だ、ダメ!!お願いだから今はやめて!!」 「・・・先輩、いくつっすか」 「おーねーがーいぃぃ!!」 「わっ!ちょっ・・・っ!!」 「ぎゃあぁ!!!」 雷が光るのと鳴るのと、バランスを崩した爽太とその原因を作った皐月が頭をぶつけるのはほぼ同時だった。 こんな話を、聞いた事はないだろうか。 雷が鳴った瞬間に、人格が入れ替わってしまったというファンタジーを・・・ 「いてて・・・」 「おーぅ、待ったかー!?」 「ごめんね、そうちゃん、さっちゃん。いきなり集会とかで・・・って、何してんの?」 「もつれ合ってんな。転んだのか?」 遅れてきた先輩三人組を見て、皐月と爽太は同時に挨拶をする。 だが、どこか違和感があった。 「・・・さ、つき?」 「はい?」 「いやいやいや、お前は爽太だろーが。何ふざけてんの?」 「ふざけてんのはそっちっすよ、健吾先輩」 「え・・・えぇ!?なな、なんで僕が目の前に!?」 「・・・お、れ?」 お互い顔を見合わせる皐月と爽太。 中身でいえば、爽太と皐月。 ・・・つまり、二人は入れ替わっているのである。 「うーわ、皐月が可愛くねぇ・・・」 「爽太が可愛く見えるな」 「えー!?なんでなんで?どうしてこうなっちゃったの!?」 「さ、さぁ・・・」 楽しそうな美保子に反し、不安げな爽太(皐月)と不機嫌な皐月(爽太)。 健吾と光は腕を組んで考え始めた。 「どうしたもんか・・・」 「このまま、ってわけにもいかねーしな」 「原因が何かによって、対処法も変わってくるだろ」 「原因って・・・おれは愛丘先輩に飛びかかられて転んで、起きあがったらこうですよ」 「だって雷が怖いって言ってるのに爽太くんが僕を一人にしようとしたんですよー!?」 それを聞き、光は頷いた。 「雷と、二人が転んだことが原因だな。よくあるじゃんか、ファンタジーで」 「ま、マジですか・・・」 「頭ぶつけてそうなったんなら、もっかいぶつけたらいいんじゃねーの?」 「かち割られたいんすか?」 爽太の物騒な一言を無視し、健吾は二人の頭を抱える。 たらりと、二人の背に嫌な汗が伝う。 にやりと笑みを浮かべた健吾は・・・次の瞬間。 ごんっっっ!!! 「だっ、大丈夫!?さっちゃん!!」 「いったたた・・・」 頭をさすりながら起き上った皐月は、目の前で心配そうに自分を覗き込む美保子にぺこりと頭を下げる。 そして、慌てて廊下に飛び出した。 「さ、さっちゃん!?」 美保子の声を無視し、皐月はトイレに飛び込む。 鏡に映ったのは・・・間違いなく自分の顔だった。 「よ、よかった・・・夢かぁ」 かたり、と物音がして振り返る。 そこには眉間にしわを刻んだ爽太の姿があった。 「あ、爽太くん」 「夢かって、愛丘先輩、もしかして入れ替わった夢、見たんすか?」 「・・・え?」 人が想像することは、実現が可能。 その言葉の真相がどうであれ、この二人の身に起こった事は・・・ 紛れもない真実。