08.06.03

「これは予想外っ!!」 「決定だな」 「そ、爽太君・・・」 「問答無用!というわけでぇ、罰ゲームは皆川爽太!!決定ぃぃ!!」 「・・・・・・」 女生徒から絶大な人気を誇るホスト部、ディア。 本日この部室でたった今決定したのは・・・なんと罰ゲームの犠牲者である。 しかも、受けるのは皆川爽太。 一見罰ゲームには無縁そうに見える、感じられる彼の不運は・・・まさしく始まりからであった・・・ 【空色ピアノ オリジナル小説版  <思い返して、笑顔に再会>】 抜き打ちテスト それは、学生にとって最大の敵。 この恋夢学園も教師たちの気まぐれで敵に襲われる運命となってしまったのだった・・・ 「えー、というわけで、今度抜き打ちテストがある。勉強しておけよー」 「えぇぇぇぇ!?」 不平・不満の満ちあふれた教室を何事もなかったかのように立ち去る教師。 そんな姿を恨めしそうに睨みつけていたのは、ホスト部の部員として有名な男子生徒・米木健吾だった・・・ 「うへぇ・・・テストかよぉ」 深いため息をついてカバンを持ち、健吾は教室をとぼとぼと後にした。 がっくりと肩を落とす健吾の肩を叩いたのは、にっこりと笑顔を浮かべたホスト部の部長・小咲美保子だった。 「や、健吾!何落ち込んでんのよ?」 「美保子・・・抜き打ちテストの話なかったのかよ?」 「あぁ。あんなのただのゲームじゃない」 「・・・ごめん、おれが間違ってた」 美保子は成績優秀でも有名。 それは学園長にコネを持っているという、ホスト部しか知らない秘密の賜物ではないかと、健吾達ホスト部員は 考えていた。 余裕そうにほほ笑む美保子は、健吾の肩を再び叩いて笑った。 「だーいじょーぶ!私が教えてあげるよ!」 「マジでか?頼むわー。おれあんま勉強好きじゃねーんだよな」 「追試っつー情けない展開だけはやめてくれよ」 「こ、光!」 「やっほー」 無表情で突然現れたのは、健吾と同じくホスト部員の由沢光。 健吾と美保子の間に割り入り、光は健吾に構わず美保子に話しかけた。 「今度のテスト、中等部も同時にやるらしい」 「へーそうなんだぁ」 「おい、光!いきなり現れてんじゃねーよ!」 「悪い。 で、爽太が」 「おい聞けよ!!」 彼らのホスト部は、「ディア」。 部室には部員の残りのメンバーである後輩が待ち構えていた。 「こんにちは、師匠っ!」 「おう皐月! なぁ聞いてくれよー!」 健吾を師匠と呼び、慕うのは、中等部三年の愛丘皐月。 愛らしい容姿が人気で、ディアのアイドル的存在といえる。 「どーも、先輩方」 「やっほー、そうちゃん」 「テスト、楽しみですね」 「お前もそう思ってんのか!?おれの周りはテスト好きばっかかよー!」 「何言ってんすか。一言も好きだなんて言ってないですよ」 先輩であるはずの健吾にクールに返したのは、ディア最年少の皆川爽太。 中等部二年で、裏表が激しい事で有名である。 「美保子先輩、実はおれから提案がありまして」 「提案?」 「今度のテスト、部員で勝負しません?」 「は!?勝負!?」 ニヤリと笑みを浮かべた爽太は、近くにあった椅子に腰かけて話し始めた。 「今まであっちのホスト部、ケアクローバーとは勝負した事はあっても、この部の中で勝負した事は一度も ないじゃないですか。 一度やってみたかったんすよ、おれ」 「おれ負けるにきまってんじゃん!!ぜってーやだ!!」 「そんなのわからないですよ、師匠!人生、何が起こるかわからないですから!」 「・・・皐月、健吾がビリかもって思ってる、とも取れるぞ?」 「へ!?」 「ま、でも面白そうね。 私はいいよ!」 「もちろん、実力で、ですよ?」 「わかってるって。今回は学園長に言っておくから」 やっぱり そう脳裏によぎる部員たちだが、敵に回すと恐ろしい人物だという事を承知である彼らは何も言わずにそれを流す。 健吾はいまだに納得いかないようだったが、爽太のさらなる提案で折れたのだった。 「最下位には、もちろん罰ゲーム。何か考えないと、ですね」 「よし!だったら女装にしようぜ!!」 「じょ、女装、ですか師匠・・・」 「そんなの私には罰ゲームにならないじゃん!」 「じゃあ、美保子先輩の罰ゲームは学園長の弱み公開、なんてどうですか?」 「私だけ重くない?」 「負けなきゃいーだろ、美保子」 「光まで好戦的ね・・・いいわ、受けて立つ!!」 「ここで逃げるは男がすたるってな!やってやろーじゃねーか!」 「僕も頑張ります!!」 お互いに火花を散らす部員達。 その後、彼らは無言で部室を退出し、勉強に励んだという・・・ 一週間後 決戦の時は、来た。 それなのに、この人物は頭を抱えていた。 勉強しなかったわけではない。 最悪なのは、体調である。 一日ぐらい休んでもいいか、なんて考え、明日はテストであっても休もうと決めていた。 それなのに。 「あー、以前から言っていた抜き打ちテストを行う。教科書しまえー」 「う、うそだろ・・・」 痛む頭とだるい体を抱え、皆川爽太の不運は始まったのだった・・・ 三日後 爽太は自分でもよくわかっていない状態でのテストを終え、次の日は休み、久々の登校となった。 テストの結果は出たのだろうか。 ぼんやりとそんな事を考えていると、廊下で担任に呼びとめられて爽太は職員室に入った。 「おはようございます」 「あぁ、おはよう。 なあ皆川、三日前のテストの日、何かあったか?」 「は?」 「・・・散々だぞ」 爽太は、一週間前の自分を呪った・・・ 「なんじゃこの点数は!!!」 「・・・笑いたきゃ笑えばいいでしょ」 「ぜ、全部一ケタ・・・」 「どうしちゃったのそうちゃん!」 「絶対健吾が罰ゲームだと思ったのに」 「どーゆー意味だ光!」 熱を出していたせいでぼんやりしていた爽太のテストは、五教科全部合わせて三十点という凄まじい結果となった。 得意であるはずの英語の結果も惨敗。 相当体調が悪かったのだという事がわかる結果となったのだった。 「罰ゲームは免除?だってそうちゃん、具合悪いのに頑張ったんだし」 「そうですよね」 「追試は受けさせてもらえるのか?」 「そうみたいです。先生が言ってましたんで」 「ならその結果でだな」 話がまとまりかけたというのに、その空気をぶち壊したのは・・・健吾であった。 「ちょーーーっとまったぁぁぁぁ!!!結果は結果だ!罰は罰!受けろよ、爽太!」 「・・・言い訳がましいですけど、これはフェアな結果じゃ」 「知るか!体調管理も勝負のうちだ!男のくせに逃げんのか!」 「・・・」 爽太は健吾に言い負かされそうになるのが悔しくなり、深いため息の後、健吾に詰め寄って言い放った。 「やってやりますよ。ただし、追試結果でアンタが負けたら一日中女装しててもらいますよ」 「そ、それはだな・・・」 「男のくせに逃げるんですか?」 どこかで聞いた事のあるセリフを吐く爽太に、結局健吾は負け。 爽太は内心では苛立っていたものの、健吾にそこまで言われて引き下がる事は情けなくてできない。 美保子が用意したという服装に着替える事にしたのだった。 「・・・なんだそりゃ、爽太」 「どうも、佳乃先輩・・・」 佳乃の目の前に現れたのは、なんと女生徒用の制服をまとった爽太だった。 罰ゲームの内容は、ケアクローバーの部員、誰か一人にサインをもらってくること。 爽太は佳乃に頼みに来たのだった。 「罰ゲームです。すいませんけど、ここに名前書いてもらえます?」 「かまわねーけど・・・なんか、似合ってんな、爽太」 「ありがたいお言葉、ありがとうございます」 棘のある言葉を吐き、爽太はさっさと佳乃の元を立ち去った。 その間いろんな生徒に声をかけられたが、爽太の目には健吾の勝ち誇った姿しか映っていなかった。 「あの野郎・・・」 その次の日に行われた別の内容での追試試験。 絶好調の爽太が赤点など取るわけもなく、次の日、米木健吾は女生徒として登校し、一日を過ごしたという・・・ もちろんそれが許されたのは、偉大なる部長殿が弱みを握っていてくれたおかげなのだが。