09.08.13

「太鼓のお囃子、神輿を担ぐ男たちの声、揺らめく提灯の灯り・・・」 「女の子の浴衣にうなじ、裾からちらつくおみ足に・・・」 「ちょ、それ違くないですか?健吾先輩・・・」 「たこ焼き、チョコバナナ、お好み焼きに焼きそば・・・わたあめ!」 「・・・もういいって。いい加減にしろって」 「うわーーーーい!!!なーつまーつりぃぃ!!」 【空色ピアノ番外編 夜空に散りゆく花火と恋心】 かつてないくらいにハイテンションなのは、このディアのホスト部メンバー。 本日は近所の神社にて、夏祭りが開催されたのであります。 たまにはいいだろうと言う事で、今回はもう一つのホスト部であるケアクローバーのメンバーは抜きの水いらず。 お調子者のテンションがさらに上がる、というのも仕方のないことなのでした。 しかも、部長である美保子の命令に従って全員が浴衣。 祭りに参加している一般人の目も惹くというのも、さすがはホスト部といったところ。 「何から食べますか!?師匠っ」 「そうだなぁ・・・まずはお好み焼きか!? って、おい爽太!いきなりおれの財布すってんじゃねーよ!」 「あ、すみません。おれ、こういう祭りの食べ物ってあんまり好きじゃなくって。 でもおいしく食べたいじゃなすか、せっかくだし」 「だからってなんでおれの財布を!」 「人のおごりだと何でもおいしく感じるもんなんですよ」 「ふざけんなぁ!」 「ちょっ、喧嘩なんてやめてくださいよぅ!」 相変わらずの二人を見つつ、光はため息をついた。 そして、チョコバナナをほおばる美保子に視線を移動させる。 ・・・可愛い。 浴衣姿なのは全員同じだが、やはり女の子。 特に美保子だとその魅力も倍増するというものだ。 光の視線に気がついた美保子は、にっこりと笑って光に問うた。 「ど?可愛い?」 「・・・あぁ」 小さな返事も、美保子にとっては大きな喜び。 照れる光の背中をつついてみる。 「なんだよ」 「べっつにー?」 楽しそうな二人を眺めつつ、爽太は深いため息をつく。 その腹いせに、爽太は財布からお札を出し、お好み焼きを買った。 「すいません、二つ下さい」 「はいよっ!」 「ちょっ、てめ!それおれの財布だっての!!!」 「いてて」 「大丈夫っすか」 「あ、うん、ヘーキ」 爽太の問いに、美保子は笑ってみせる。 足が痛むのは、草履のせいだろう。 履き慣れていないから、指の間が赤くなってしまっている。 「あんま無理しない方が」 「あ!見てみてそうちゃん!」 「・・・」 痛いんじゃないのか? 呆れつつも、爽太は美保子の後を追う。 後の三人は神輿を見に行くとかで別行動だが、光が美保子から離れたのは意外だった。 だが、爽太にとってはチャンスだ。 「かわいいなぁ」 「やればいいじゃないですか」 「うーん・・・こういうの苦手だからさぁ」 「じゃあおれ「物は試しっていうじゃんか!」 「あ、健吾」 見事にセリフがかぶり、爽太は思いっきり健吾を睨みつける。 それを知ってか知らずか、健吾はさらに続けた。 「金魚すくい対決しようぜ!みんなでよ!」 「はぁ?」 「何だぁ?爽太。おれには勝てねーってか?」 その言葉に、爽太の闘争心がめらめらと燃えあがる。 袖をまくり、呆気にとられる金魚屋のオヤジにお金を叩きつけた。 「土下座させてやりますよ」 「やってみろっての!」 「ぼ、僕もやりますっ!」 「おれは・・・」 「逃げるんですか?先輩」 「・・・」 「美保子先輩、金魚、プレゼントしますから」 「ホント!?わーいっ」 光も爽太同様、小銭を叩きつけて爽太の隣にしゃがみ込む。 その姿を、爽太は楽しそうに見つめていた。 「泣かせてやるよ、ガキ」 「上から言うなよ、先輩」 バチバチと火花が散る中、制限時間二分間の金魚すくい対決が幕を開けた・・・・・・ 「終了ーっ!」 金魚屋のオヤジの声で、四人は一斉に顔をあげる。 一番いきがっていた健吾は開始早々紙が破れ、結果は二匹。 皐月は五匹と大健闘。 爽太と光は七匹で同点となった。 「・・・引き分けってのは嫌ですね」 「同感だ」 そう言いつつも、爽太は二匹だけもらい、あとは返して立ち上がる。 辺りを見回すが、美保子の姿はどこにもなかった。 「・・・あれ?」 「ん?どーした、爽太」 「美保子先輩、どこいったんすかね?」 「いないな」 「ほんとですね・・・お手洗い、でしょうか」 四人は顔を見合わせる。 たった二分とはいえ、女の子を一人にして目を離してしまったのだ。 しかもこんな人込みで、おかしな奴の一人や二人、普通にいると考えてもよさそうだ。 「探すぞ・・・!」 バラバラに分かれ、見つけたら即電話。 そう決め、四人は駈け出した・ 光は、深く後悔していた。 爽太の挑発に乗り、美保子から離れてしまったこと。 「ごめん、美保子・・・!」 早く見つけなければと焦れば焦るほど、人に流されていく。 必死で掻き分ける光の目に、走る爽太の姿を見た気がした・・・ 「待てってお嬢ちゃーん!」 足が痛むので、とっくに草履は脱いでいた。 裸足の方がいくらか楽だ。 近くにトイレがあって、行ってこようとほんの少し彼らから離れただけ。 それが、こんな目に遭うなんて・・・! 三人組の男に絡まれて、逃げようとしたらさらに二人追加。 こんな追加注文、頼んでない! 「はぁ・・・はぁ!」 ケータイを取り出す暇もなく、美保子はひたすら走る。 どんどん人の気配が感じられなくなるのも、男たちの作戦なのだろう。 「・・・お疲れさん」 「っ!?」 目の前に現れたのは、最初に声をかけてきたナルシストっぽい男だった。 こんなに必死に逃げてきたのに、それはないだろうと美保子はうなだれた。 「観念しらはぁっ!?」 「あ、当たった」 飛びかかってきた、というより飛び蹴りを食らわせたのは、よく知る少年だった。 息を切らせ、肩で大きく息をしている。 「この人に触るな」 「そ、うた・・・!」 「な、なんだこのガキ!!」 爽太は美保子の傍を離れず、自分たちを囲むようにして集まってきた男たちをそれぞれ睨みつける。 そして、言い放った。 「この人はおれの大事な人だ。傷つけやがったら・・・容赦しない」 その威圧感に、男たちは一瞬ひるむ。 だが、数でいえば圧倒的に不利だ。 「や、やれぇ!」 一人の合図で、一斉に襲いかかる。 「伏せてください」 「え?」 早口で言った爽太の言葉を、美保子は聞き取れなかったらしい。 爽太は舌打ちをして、美保子の頭を地面に押しつけるようにして抱え込んだ。 「おらぁっ!」 殴りかかって来た一人のこぶしを簡単にかわし、代わりに腹に一撃。 そして、つづけてもう一人に蹴りを叩きこんでやった。 美保子はただうずくまっているだけだったが、爽太がこんなに喧嘩が強いなんて、 思ってもみなかった。 「大丈夫っすよ、先輩」 爽太は美保子を守っているというだけでも動きにくく、不利な状況にある。 それなのに、余裕のある声で言った。 「大丈夫。言ったでしょ? おれが、守る」 「そ、おた・・・」 「うらぁっ!!」 がっ、と鈍い音の後、美保子の顔に何かが降り注ぐ。 雨? 違う。 「血・・・うそっ、爽太!!」 美保子があわてて爽太を抱えるが、爽太はなんでもないという風に頭から流れる血を 汗のようにぬぐう。 背後に立っていた、さっきから偉そうにしていた男が棒を手にしていた。 「調子に乗ってんじゃねーぞガキぃ」 「うるさいよ、アンタ。おれをガキガキって・・・ただでさえイラついてんのにさ」 「いきがってんじゃねぇよ!一人で何が出来るってんだ!?」 爽太は膝を地面につけながらも、美保子を抱えてにやりと笑って見せた。 「・・・なに、笑ってやがんだ?」 「いや、一人なのはアンタだって、思ってさ」 「何だと・・・?」 男が振り向くと、そこには健吾、皐月、そして光の姿があった。 それぞれ、足もとに男の仲間を転がしている。 「待たせちまったな、爽太!」 「遅いっす」 「ごご、ごめんね爽太くん!!それより、血!!」 「・・・どう、責任とってくれるつもりだ?」 珍しく光が怒っている。 恋人を追い回され、仲間を傷つけられた。 当然だろう。 歩み寄る光から逃げるようにして、男は爽太と美保子を人質にとり、ナイフを突きつけた。 「美保子、爽太!」 「へっ!残念だったなガキども!勝ったつもりだったか!?つめが甘いんだよ!」 「そりゃオメーの方だぜ」 「あ?」 健吾が笑顔で男の背後を指さす。 男が振り返ると、そこにはゴキゴキと指を鳴らす人物の姿があった。 「あ、やせ・・・かの!?」 「ご名答〜!賞品は地獄への切符だコラァァァ!!!仲間傷つけやがってぇぇ!!!」 「ぎゃああぁぁぁ!!!!」 「大丈夫?」 「っ! ・・・平気っすよ」 美保子が差し出したハンカチを受け取らず、爽太はもういいと手を振ってみせる。 自分の懐から手拭いを取り出し、それで後頭部をおさえた。 「・・・あり、がと」 「当然のことっすよ。世話になってる人が襲われてたんです。そりゃ助けますよ」 「違うの!助けてくれたこともだけど、その・・・嬉し、かったから・・・」 「何が?」 「え、と・・・だ、いじだって・・・言って、くれたから・・・」 爽太は目を丸くした。 提灯のかすかな灯りの下、美保子の顔がほのかに赤くなっているのに気付いたからだ。 爽太はさっきの事を思い出し、急に照れくさくなって美保子から顔をそらした。 「傷まで負わせちゃって、本当にごめんなさい」 「もとはと言えばおれたちが先輩を一人にしたせいっす。謝るのはこっちっすよ」 美保子は顔をあげなかった。 爽太は思い出したように、着物の袂を探る。 「・・・あ、無事だった」 「何が?」 目の前に出されたのは、二匹の金魚だった。 あれだけ暴れたにもかかわらず、悠々と泳いでいた。 「はい、先輩」 「あ、ありがとう。 なんか、もらってばっかだね」 苦笑する美保子を見て、爽太は笑みを浮かべた。 「だったら、おれに欲しいもの、くれますか?」 「欲しいもの? 何?」 爽太は美保子の腕を引き寄せ、顔を近づけた。 夜空に花火が輝く。 美保子は突き放すこともできず、ただ、爽太の顔を至近距離で見つめていた・・・・・・ 「・・・すいません」 爽太はそう言いつつも美保子を抱きしめた。 何故か、美保子の瞳からは涙があふれる。 光に対しての罪悪感? 違う。 自分のふがいなさに対してだ。 「・・・泣くほど嫌なら、突き飛ばせばよかったのに」 「ち、が・・・!」 「拒絶してくれなきゃ、また調子に乗りますよ」 美保子はただ首を振る。 爽太は苦笑しつつ、美保子の額に優しくキスをした。 「・・・もう、いいよ先輩。泣く必要なんかない。おれはただ、笑ってる先輩が好きなだけ。 今のは・・・ただの自己満足とわがまま。 光先輩には、おれがちゃんといいますから」 「そうっ・・・!」 「好きでした、美保子先輩」 「!?」 初めて見るかもしれない、爽太の無邪気で明るい笑顔。 その表情はすっきりとしていて、何の迷いもなかった。 好きでした 紛れもなく、過去形のその言葉。 爽太の決心がすべて込められている気がした・・・・・・ 「・・・ありがとな、佳乃」 「たまたま通りかかっただけだっての。 それより」 まっすぐこちらへ向かってくる爽太を顎でさす。 光はため息をつきながら、爽太に近づいて行った。 「佳乃、美保子を頼むよ」 「あぁ・・・」 健吾と皐月を引き連れ、佳乃は美保子のもとへと向かう。 向かい合った光と爽太の間に、冷たい空気が流れた。 「・・・見てたんでしょ?先輩」 「あぁ」 「覗き見ですか。趣味悪いなあ」 「人の彼女に手を出すのも相当いい趣味だろ」 「そりゃそうだ」 爽太は肩をすくめて笑って見せた。 「でも、もうこれっきりっすよ。きっぱり、美保子先輩への想いは断ち切れました」 「・・・それは、美保子がお前のキスを受け止めたからか?」 「せめて突き飛ばしてほしかったっすよ。少しも意識してないってこと、証明されちゃいましたもん。 受け入れられたのは、おれにとって苦しみと痛み以外のなにものでもなかった。 だから・・・」 爽太は光から顔をそらした。 泣いているのだと気付いたが、光は何も言わなかった。 無言で爽太から離れ、光は美保子のもとへと向かって歩き出した。 「・・・辞めるなよ、部活」 ただそれだけを言い残し、光は爽太の前から姿を消した。 花火が、夜空を鮮やかに彩る。 爽太はそんな空を見上げ、じっと何かを考えていた。 辞めるな、か・・・ あの人は、どうしてそんな事が言えるのだろう。 自分だったら、殴るだろう。 許せない、とわめくかもしれない。 ・・・あぁ、そうか。 だから、光先輩なのか。 爽太は笑みを浮かべ、もう一度だけ、涙を流した・・・・・・ 「うーっす! って、あれ?なんだこの空気」 「師匠・・・あの、爽太くんが来なかったらどうしようって、美保子先輩が」 普段とは比べ物にならないほどの暗い雰囲気の中、部屋で膝を抱える少女が目に飛び込んでくる。 美保子だ。 健吾はため息をつきつつ、部室に入った。 「気にすることねーよ、皐月。これからも爽太との仲は永遠だ・・・」 「そんなに深い仲になった覚えはないっすよ」 「うわっ!!!そそ、そうた!!!」 ゆらりと現れた爽太の姿を見て、美保子は駆け寄る。 爽太は美保子を無視し、まっすぐに光へと向かっていった。 「・・・こんにちは、光先輩」 「あぁ」 「これからも、よろしくお願いします」 「・・・あぁ」 そんな姿を見て、健吾、皐月はにっこり笑う。 美保子も、爽太の頭を撫でながら笑った。 「ありがとう、爽太」 何に対してかは、よくわからなかった。 美保子自身も、はっきりとしなかった。 それでも・・・ 「はい」 爽太は笑って、美保子と握手をした・・・・・・ ***おまけ*** 【撮影前】 光:・・・おい、なんだこれ 健:何って、今回の台本だろ?ボイスドラマじゃねーから大変だよなぁ 光:そうじゃなくて。 なに、この内容。いじめか? 健:いじめって・・・真悟みてーなこというなよ 光:・・・納得いかねぇ。相良に文句言ってくる 健:おいおいおい!!!ちょっと待てって!!! 【撮影開始です】 ス:テストしまーす 皐:金魚すくいかぁ・・・緊張するね! 爽:そうかな?おれ、結構好き・・・って、ちょ、すいません、おれのポイすでに   破れてんすけど!! 光:それでやれってことじゃねーの? 爽:・・・光、さん? ス:あーごめんね爽太くん。 じゃ、こっち使ってねー。 じゃ、行きまーす 光:・・・「おれは・・・」 爽:「逃げるんですか?先輩」 光:・・・金魚すくいよりも射撃対決をしたい。的はお前で 爽:・・・え?あの、すいません、・・・えぇ? ス:か、カットォォー!!! 光:「泣かせてやるよ、ガキ」ついでに泣いてわびろ 爽:え、えぇ!?なな、なんすか光さんっ!!! 【クライマックスです】 爽:「だったら、おれに欲しいもの、くれますか?」 美:「欲しいもの? 何?」 ス:・・・ちょっとカットねー。 あの・・・光くん?何してるのかな 光:何もしてません。ただ邪魔しているだけです 爽:ちょ・・・いい加減にしてくださいよ光さん 光:おれの彼女を守って何が悪い 爽:い、今はそんなこと言ってる場合じゃ・・・ 美:うるっさい二人とも!!!いい加減にしないと撮影終わらないじゃん!!! 光&爽:す、すみません・・・ 【お疲れ様っ!!】 爽:あー・・・つっかれた 皐:お疲れ。今日は光さんがいろいろ大変だったでしょ 爽:あー、うん。あの人も役者なんだからこれくらい慣れないと 健:無理だろ。彼氏としてやってるっつーのに、彼氏じゃないお前が先に美保子とちゅーしちまうんだもん 爽:・・・そ、そんなんおれ知らないっすよ!!相良に言って欲しいすよ! 皐:それがね、そっちの方が面白いって、本人が言ったらしいよ、光さんに 健:そ。だからお前がこんなかわいそうなめにあってんの 皐:しかもこの後の物語も、相当大変だしね 爽:も、もう嫌だァァァァァアア!!!!!